県に就職し7年目に紀州地域に異動になり、はじめて農業の現場担当(農業改良普及員)になりました。主に水稲や小麦の栽培指導や「集落営農」の推進が業務内容でしたが、三重県南部の紀州地域は特に過疎化の進んだ地域で、あちこち現地を歩くと本当に山にのまれてなくなってしまいそうな集落もありました。県内でも地域によりさまざまな状況がありますが、感覚的には、山間地や過疎地域であるほど田んぼと地域のつながりが深く、田んぼを維持することがそのまま集落機能や集落そのものの維持につながっていると感じました。
そんな中、御浜町の尾呂志という地域で、ある農家さんのグループと出会い水稲栽培の技術指導などを行う過程で、尾呂志『夢』アグリという組織立ち上げにも携わることができました。特にこのグループの方は熱心で、すぐに打ちとけて個人的にも親しくなりました。今振り返ると、そのグループから忘年会に誘われ、その場で趣味のビオラを弾いたのがこの活動の始まりだったと思います。
異動でこの地域を離れた後もおつきあいが続き、気の合う楽器仲間にも呼びかけて、バイオリンやチェロ、フルートなどと一緒に音楽会を企画することになりました。
(1)成果・効果、(2)チャレンジ性、および(3)波及効果
これまでに3回の演奏会を行い、毎回大変喜ばれています。普段は座談会などを開いても20名ほどしか集まらない地域ですが、当日は地区内外から100名以上お越しいただき、ひとつの大きなイベントとして定着してきました。
主催は前述の尾呂志『夢』アグリさんで、「農業だけではなく文化的なことにも取り組んで地域を元気にしたい。」とご協力をいただき、会場借り上げやチラシ配布など主体的に動いていただいています。
『夢』アグリの皆さんのおかげで、尾呂志地域は今とても活気づいており、共同の農機を導入したり、直売所に漬物加工所を増設したり、地元の歳時記を作ったりと紀州で最もホットな地域の一つに発展しています。
ただし、あくまで主役は地元の方であり、いくつかの取り組みの一つが音楽で、こちらはその応援をさせていただいている、という感覚でいます。
また、県内の別の地域でも、かつて仕事でお世話になった平均年齢80歳のおばあちゃんたちの朝市グループへお礼の演奏を企画したり、地元子供会のクリスマス会で演奏したりすることも企画しています。
(4)協働
音楽会そのものは比較的限られたメンバーが主体ですが、県の「地域活性化プラン」という取り組みもからみ、学校、直売所、防災など地域全体をまきこんで様々な分野の方が動いています。
(5)継続性
室内楽のメンバーも喜んで参加しており、義務感は全くなく、紀州の方たちと会えることを毎年楽しみにしています。一方の尾呂志の方たちも主体的に動いていただいています。お金がからむわけでもなく、補助事業などとも違い、お互い楽しみながら自主的な取り組みとなっていますのでこれからも続けていけると思います。また、近いうちにオーケストラのメンバーにも輪を広げ演奏会を盛り上げていきたいと考えています。