[No. 149] サル被害軽減のための住民主体情報発信・共有システムの無償運用

 NPO法人サルどこネットを県職員、地域住民等で運営。サル被害を軽減するため、住民が携帯電話を用いてサルの群れの位置情報を周辺住民にリアルタイムで発信・共有できるGPSシステムを運用。サル対策研修会などで熱意ある住民を発掘、地域のキーマンとして育成。平成24年度、三重県限定システムを全国対応版にバージョンアップ、セルフ方式で無償利用可能とする。また、錯誤捕獲されたクマの安全な保護・放獣を実施。

 平成15年の頃、サルやシカなどの農林水産業被害対策を対象にした民間調査機関は三重県内になかった。県行政内部においても、獣害対策を総合的かつ統括的に所管する部署がなく、住民に獣害の原因と対策を具体的に説明することが困難な時期であった。また、絶滅の恐れのある紀伊半島のクマが錯誤捕獲された場合、知識や対応方法がないため殺処分していた。
 平成15年度にNPOサルどこネットを県職員、地域住民等で設立。獣害を軽減するため、住民が携帯電話を用いて情報を周辺住民にリアルタイムで発信・共有できるGPSシステムを開発、運用を開始した。被害対策の普及を図るため、県内・県外で開催されるサル対策研修会講師等を務めながら、熱意ある住民を発掘し、地域の情報発信・共有のキーマンとして育成。いくつかの市町では常時サルの群れ情報等が提供され、駆除や追い払いなどの被害対策の要となっている。平成24年度、システムを全国対応とし、福井県鯖江市とその周辺市町や他の県で活用されつつある。また、100頭あまりしかいないとされる紀伊半島のクマの安全な保護・放獣について、この10年間で十数頭実施した。野生動物との共生を、普及啓発中。

成果・効果など:獣害対策の普及啓発により、サル被害をあきらめていた住民がみずからサルを追い払うようになり、被害が軽減することで自分たちの個人の力、自治会等の地域の力を認識するようになった。住民にはなじみの薄い情報通信技術を扱いやすくして導入することにより、住民の調査活動が簡単にメールやHP情報となり地域住民にリアルタイムで配信されることにより、地域内での交流が進み、交通過疎とともに情報過疎を感じていた獣害発生地域の住民が、住民・行政と情報共有ネットワークを構築できるようになった。
チャレンジ性:最近の獣害対策ではあまり取り上げられなくなった古くから伝わる方法を再検討し、住民が栽培、加工、生産し、畜産農家等へ販売できる獣害対策のための地域産品を住民と検討中。捕獲されたサルの遺伝情報を京都大学霊長類研究所の共同利用研究施設で解析し、学会発表し、学術的にも展開。三重県内のサルの遺伝的調査と被害発生状況を比較検討し、三重県が今後群れごとサルを捕獲していく際に資するよう、遺伝情報指標を検討。
波及効果:大学や研究機関等が調査研究に活用するため、現地調査を行うとき、住民が蓄積した膨大なデータがいかに重要な資産であるかが再認識され、地域住民の誇りとなっている。獣害対策用に開発した電子機器が、養蜂家のクマ対策のみならず窃盗対策にも活用されるようになった。
協働:一般社団法人三重県猟友会と協働し捕獲個体からサンプルを採取し、サルの遺伝情報のみならず、イノシシやシカなどから人間と家畜へ伝染するかもしれない病気についても岩手大学、岐阜大学、山口大学等の研究者と検討していく。
継続性:20年以上前から紀伊半島の一部でタイワンザルが繁殖し、ニホンザルと交雑し遺伝的かく乱が発生している。まだ三重県内で確認されていないが県内で捕獲されたサルの遺伝情報を引き続きモニタリングし、交雑の有無を確認していく。